- 2012年2月17日(金)特集
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ただいま加速中!デンソーのスピードスター「目の前のことを必死に戦って今がある」
大庭 久美子選手(デンソーアイリス)

今回のゲストは、ここ数年で目覚ましい成長を見せているデンソーの大庭久美子選手です。スピードあるドライブインと3ポイントシュートを武器に、機動力バスケの中心となっているプレイヤーです。昨夏のアジア選手権で眼窩(がんか)底骨折という大ケガを負ってしまった大庭選手ですが、手術とリハビリを経て、2012年のオールジャパンで復帰し、初の決勝進出の原動力となりました。ここ数年の成長の背景に迫るとともに、2011-12シーズンプレイオフを目前に控え、今後の抱負を語ってもらいました。
——8月のアジア選手権、3位決定戦のチャイニーズ・タイペイ戦でシュートを決めたあとに接触して左眼窩(がんか)底骨折のアクシデント。1月のオールジャパンではゴーグルをつけての復帰でしたが、チームをファイナルに導く働きでした。ここまで復帰する道のりは大変だったと思うのですが、ケガから復帰までの過程を聞かせてもらえますか。ケガをした時はどのような状況だったのですか?
あの時のことは、シュートを決めてディフェンスをしたまでは覚えてるんですけれど、正直、あまり記憶がないんですよ。脳震盪を起こして、血も出ていたので、すぐに病院に行きましたが、「目の下の骨が折れているから手術が必要」と言われて頭が真っ白になりました。あの試合のビデオは今でも見られません…。
——やっぱり、そのシーンは見たくないのですか?
そうですね。まだ見ることができないんですよ…。
——眼窩(がんか)底骨折というのはどういう状態で、どういったリハビリが必要だったのですか?
眼球を支えている部分の骨が折れてしまったんです。吹き抜けのように綺麗に折れたらしく、眼球自体がどんどん下にくぼんでいく状態でした。それによって見え方が二重になってしまうので、手術をしないと厳しいということでした。折れたところには腰の骨を移植しなければならず、その不安もありました。
手術してから2週間くらい経って、目と腰の両方のリハビリを始めました。まず腰回りの筋力が弱っているので歩くことからスタートして、それから眼球のビジョントレーニングをして……という感じです。手術したばかりの頃は物が二重に見えたんですが、これはビジョントレーニングで少しずつ正常になってきました。腰のほうはきちんと動かせるようになるまで2ヶ月かかると言われたので、それも大変でしたね。チーム練習に復帰したのは11月中旬で、接触プレイの練習に入ったのは12月の頭です。徐々に上げていく感じでした。
——デンソーは昨シーズン、オールジャパンでもWリーグでもベスト4入りし、大庭選手自身は初の代表入り。さあ、ここからという時の大ケガでした。リハビリに対してはどのような気持ちで取り組んでいたのでしょうか。
ケガをしたことは悔しかったですね。日本代表に入ることができて、それをチームに生かしたいという思いでやっていて、その矢先のケガだったので…。でも、先のことを考えるよりは、今できることをやるしかないと思いました。私はバスケでもそうなんですけど、あまり先のことを考えず、目の前のことを必死にやるタイプなので、お医者さんの言葉を信じて毎日のリハビリを一生懸命やるしかなかったです。お医者さんには、目も腰も思ったより早く回復してきたと言われたので、それはうれしかったです。
——復帰はオールジャパンからでした。復帰して日が浅かったにもかかわらず、オールジャパン準決勝のトヨタ戦では、勝利の立役者となる活躍でした。トヨタ戦の手応え、そして復帰できた気持ちは?
まず、コートに立てるのがうれしかったし、自分の力を出し切ることだけを考えてプレイしていました。チームではトヨタに勝つことを目標としてやってきたので、そこで結果を出したことはうれしく思いますし、自分はシュートに関しては思い切り決められたと思います。けれど、もっと動き回ればチャンスを作ることができたのに、という反省もあります。
——初の進出となったオールジャパン決勝では、JXに出足から圧倒されてしまいました。リーグ戦とは何が違ったのでしょうか? また、決勝を戦ったからこそ、わかったことは何ですか?
はじめての舞台で緊張もしましたし、出だしから相手の気迫に押されてしまいました。相手に先手でやられてしまって、自分たちから仕掛けることが足りなかったです。なんていうか、準決勝と決勝では相手の気迫が違いました。決勝はチャレンジャーとして戦う気持ちを持っていたのですが、JXがそれを上回る強い気持ちで向かってきたので、どうしても受け身に回ってしまったと思います。これが決勝なんだと、決勝の舞台に立ってみて得るものは大きかったです。
——Wリーグでもベスト4のその先を行くならば、この洗礼は経験しなければならない壁ですね。
はい。昨シーズンはチームでもセミファイナルに行ったし、私自身は日本代表にも行かせてもらえてすごくいい経験ができたので、これを経験しただけじゃなく、これからに生かさないといけないと思います。
——デンソーは毎年伸びているチームですが、大庭選手自身はチームの成長の手応えをどのように感じていますか?
一人一人の役割が明確になってきています。走ればテルさん(小畑亜章子)からパスが来るし、シュートを打てばリバウンドはリツ(髙田真希)が取ってくれる。今はチームプレイをするが楽しくて、みんながチームメイトを信じている感じがします。
——ここ数年でチームの主力となり、自分自身の成長はどのように感じていますか?
練習の成果は出るんだなあと思いました。自分はいちばん最初に走らなくてはいけないポジション。自分が走ったり、動くことで、自分にもチームにも攻撃チャンスが作れるので、それは意識してやっていて、だんだんできるようになったと自分でも感じています。課題はひとつひとつのプレイの質を上げることです。オールジャパンの決勝でもそれはすごく感じました。
——Wリーグのプレイオフは目前。ケガで苦しんだ分も、思い切り走り回ってほしいです。プレイオフの目標と今後の抱負を聞かせてください。
ケガから復帰してプレイできるようになったのはうれしいけど、スピードのキレがまだ去年の状態まで戻れていないので、そこが課題です。本当は戻すどころか、去年より上げなきゃいけないですよね。
チームの目標は、昨シーズンは悔しい思いをしたので、今年は絶対にセミファイナルを勝ちたいです(昨シーズンはトヨタとのセミファイナルでは接戦の末に1勝2敗で決勝進出を逃した)。オールジャパンではトヨタに勝ちましたけど、本当のリベンジはWリーグのセミファイナルだと思っているので、勝ってファイナルの舞台に立ちたい。そして、そこからはチャレンジです。これからも、目の前の試合をひとつひとつ頑張っていきたいと思います。
質問コーナー(ホームページに寄せられた質問にお答えします!)
●大庭選手はどのような幼少時代を送りましたか?
「幼稚園の頃はなぜかクッキー屋さんになりたいと思ってました(笑)。それは今でもよく覚えています。バスケットを始めたのは小1の時です。地域にバスケットチームがあったんですけど、人数が足りなくて「練習終わったらアイスが食べられるよ」と誘われて、3つ年上のお姉ちゃんと一緒にミニバスを始めました(笑)。幼稚園の頃は少しだけ新体操みたいに踊ったりするのをやっていたんです。今でも体は柔かいほうで、体をバランス良く動かせるようになったのは、新体操のおかげかなと思うところがあります。小学校の頃は水泳も掛け持ちしていたんですけど、バスケが楽しくて夢中になってきたので、小3からは大会に出られるチームに入って、本格的にミニバスを始めました。
●練習後の時間は何をして過ごしていますか?
私はテレビっ子で、部屋にいる時はたいていテレビを見て過ごします。ドラマやバラエティ番組を録画して見るのが好きです。月9もチェックしています(笑)。あとは雑誌を読んだり、アロマをたいてゆっくりするのが好きです。
●コートネーム「ミウ」の由来は?
「絶妙なプレイを目指してほしい」の「ぜつみょう」から「み」と「う」を取って「ミウ」です(笑)。テルさんがつけてくれたんですけど、ぜつみょうの「み」と「う」の他にも「よ」と「う」で「ヨウ」という候補もあったんですよ(笑)。これ、説明しにくいんですけど、「ミウ」はかわいいから気に入ってます。
※面白い由来だったので、他の選手のコートネームの由来も聞いてみました。
ひとつ下の高田選手の時は自分たちがつけました。高田選手の場合は「リバウンドを強く」の「り」と「つ」で「リツ」。伊藤(恭子)選手だったら「小さくても勢いがある選手」の「ち」と「い」で「チィ」です。
●「今、これにハマっている!」というものがあったら教えてください。
抹茶の商品に長いことハマっています。抹茶の商品が出ると情報交換をして、買ってきて食べます。あとは、2年前くらいから「嵐」が好きです。日本代表の合宿ではダイさん(富士通・鈴木あゆみ)と嵐の話をしたり、リン(新潟、高橋礼華)と同部屋で、嵐のDVDを見ながら盛り上がってました。誰のファンというより、グループ全体の雰囲気が好きですね。しいていえば、歌とダンスがうまいので大野君ファンかなあ。
●大庭選手のように、スピードあるプレイをするためのアドバイスをください!
難しい質問ですね。(しばらく考えた後に)私の場合は中学校の先生が「誰にも負けない武器を作りなさい」という指導だったので、私は3ポイントの確率を上げることをずっとやってきました。だけど、Wリーグでは3ポイントだけでは簡単に守られてしまうので、スピードあるドライブや走ることが必要になってきました。それでだんだんと、3ポイントとスピードプレイの両方を身につけていきました。いちばん大切なのは、ディフェンスとの駆け引きだと思います。ボールをもらってからディフェンスを見るのではなくて、ボールをもらう前に判断したり、味方にチャンスを作ってもらうだけじゃなく、自分で動いて状況判断できるようになれれば、スピードあるプレイも生きてくると思います。
インタビュー&構成/小永吉陽子