- 2014年7月7日(月)特集
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努力と感謝を忘れずに日本代表で学んだことをチームに生かしたい
王 新朝喜選手(三菱電機 コアラーズ)

今回のゲストは三菱電機の王 新朝喜選手です。昨年8月に日本国籍を取得。晴れて「おう あさこ」選手となりました。生まれ故郷の中国は天津市で中学時代まで過ごし、中国を訪れた岐阜女子高校の安江満夫監督から声をかけられて日本への留学を決意。岐阜女子高校、白鷗大学を経て三菱電機に入団。189㎝の身長を生かしたポストプレイとリバウンド、フックシュートを武器に、昨年は日本代表入りを果たしてアジア選手権の優勝に貢献しました。
Wリーグでは2シーズン連続5位と奮闘した三菱電機ですが、昨シーズンは熾烈な4強争いの末に6位。悔しい思いを経験し、今シーズンの進化が期待されます。三菱電機の守護神として戦う王 新朝喜選手に昨シーズンを振り返ってもらい、今後の課題と目標、そして今シーズンも選出されている日本代表への意気込みを語ってもらいました。
——昨シーズンは6位。2シーズン連続で5位と奮闘し、4強入りをかけて熾烈な争いをしていただけに残念な結果でしたが、この成績についてはどう感じていますか。
前半戦は勝てていたんですが、オールジャパン終わってからは失速というか、試合の波があり、負けてはいけない試合に負けてしまい、ベスト4に入ることができませんでした。JX-ENEOSには一度勝つことができましたが、トヨタにもデンソーにもシャンソンにも延長戦で負けてしまい、富士通との3戦目は最後に追いつめられて負けてしまって…。追い上げられると自分たちの弱いところが出てしまいました。一昨シーズン(2012-13)は負けていても波をつかめば思い切りいけたんですけど、昨シーズン(2013-14)はその逆をやられてしまって。強いチームになるためには良い経験をしたかもしれませんが、悔しいです。
——昨シーズンはあと一歩のところで勝ち切れなかったのは、「今シーズンは勝たなくては」というプレッシャーが出てきたからでしょうか?
はい。今年は絶対にプレイオフに行くんだ、絶対に行かなきゃいけないという思いがありました。その気持ちはこれまでにはなかったものでしたが、うまくプレイで出せなかったので悔しいです。
——オールジャパンではベスト4に進出することはできましたが、リーグでベスト4に入ることはできませんでした。その理由は何だと思いますか?
オールジャパンはシャンソンに勝って自分たちにとっては、初のベスト4ですごくうれしかったんですけど、準決勝でJX-EXEOSにやられて痛い目にあいました(85-56)。12月にWリーグでJX-ENEOSに勝ちましたが(87-61)、リーグ戦で勝った喜びを忘れるくらいコテンパンにやられて恥ずかしかったです。JX-EXEOSはオールジャパンでの経験があるので、先手必勝だと分かっていて勢いよく戦ってきたんですが、私たちは初めての準決勝だったので受け身に回ってしまって、どこか甘い考えがあって…。恥ずかしい結果となってしまい、悔しい気持ちしかありません。
——勝負しようと戦ったシーズンだったからこそ、今まで以上に悔しさがこみ上げてきたのでは。
はい。そうですよね。まだまだです。ベスト4に入るのはまだ早いと神様に言われたようです。
——王選手は昨年初めて日本代表に選ばれましたが、日本への帰化を考えたのはいつ頃なんですか?
日本で高校、大学と色々なプレイを教えてもらっているうちにバスケットが楽しくなって、日本っていいなと思うようになりました。それで、三菱へ入る時にはもう帰化の意志があって、山下(雄樹)ヘッドコーチには「将来は日本代表に入りたい」とハッキリと言っていました。Wリーグで活躍することと、日本代表に入ることが目標だったので、その2つが叶ってうれしいです。これまで教わってきた監督に感謝しなければなりません。
——日本にバスケ留学のために来日して、ここまでやれると思っていましたか。
いえ、思ってなかったです。中国では中学からバスケットを始めましたが、日本に来てから岐阜女子高校でパスやシュートなどの基本をしっかりと教わりました。白鷗大学では自己流ですけどフックシュートを身につけたり、好きなようにやらせてもらいました。三菱に入ってからは色々なフォーメーションを学び、今は試合に勝ってみんなで喜びあえることがうれしいです。トップリーグでプレイすることができ、さらに日本代表に入れるなんて思ってもなかったです。
——昨年は初めてアジア選手権(11月、バンコク)に出場し、43年ぶりの優勝に貢献。アジア選手権の手応えはどうでしたか。
先輩たちについていくだけでしたが、中国や韓国に勝って優勝することができたのはうれしかったですし、良い経験をしました。日本代表で学んだことは、三菱に持ち帰れることばかりでした。
——たとえば、どんなところが三菱に持ち帰れると思いましたか。
昨年は高さのある間宮(佑佳)さんや渡嘉敷(来夢)さんと一緒に練習をしましたが、2人をディフェンスすることで自分自身とても良い経験になりました。デンソー戦に接戦で負けた時は髙田(真希)さんを守れなくて負けてしまったので、2人と練習したことをもっと実戦で生かせるように練習を重ねたいと思います。
他にも学んだことはたくさんあって、中でもシンさん(大神雄子)から言われてすごく心に残っている言葉があります。
一つはアジア選手権の時で、予選ラウンドが終わって決勝トーナメントに行く前に「ここからは1位でも4位でも同じスタートだよ。決勝トーナメントは予選ラウンドとは違う戦いになる」と言われ、みんなで気持ちを引き締めたことです。私は中国と韓国の怖さが何もわかっていなくて、予選ラウンドの勢いのまま勝てると思っていた自分がすごく恥ずかしかったです。
もう一つは、アジア選手権の前にあった東アジア競技大会(10月、天津)。この大会は試合展開が重く、チームのムードも良くなかったんですが、そこでシンさんに「バスケは楽しむものだよ!」という言葉と「自分たちの目標を見直そう」と言われてハッとしたことがありました。私たちはアジア選手権で優勝するために東アジア競技大会を戦っているのに、東アジア競技大会で重い展開になって目標を見失いかけていたんです。チームのみんなが迷っている時に、心強いことを言ってくれるシンさんの経験はやはりすごいなあと思いました。
シンさんに言われたことは三菱でも当てはまると思います。昨シーズン、大事な試合前に今までと同じ気持ちで臨んではいけなかったですし、いくらオールジャパンでベスト4に入っても、他のチームももっと頑張って練習をしているのだから、自分たちはそれ以上に頑張らないといけなかったのに…。こんなに大事なことを私は日本代表で経験したのに、大事な試合前に三菱のチームメイトに伝えられませんでした。今シーズン、同じような場面がきたら今度こそ経験した者としてチームメイトへ試合に臨む気持ちをきちんと伝えたいと思います。
——今年は世界選手権を控えています。まずセレクション合宿がありますが、日本代表の活動に向けて意気込みを聞かせてください。
今年は世界を経験できるチャンスがあるのでワクワクしています。ヨーロッパやアメリカ、アフリカのセンターは高さもパワーもあります。今の自分はもっともっとパワーアップしないと戦えないので、昨年以上に覚悟を持たないと生き残れないと思って頑張ります。
——Wリーグに向けて課題は。
個人ではシュート確率を上げることと1対1のディフェンスの2つです。中のディフェンスは好きですが、外のディフェンスが苦手なんです。でも絶対守ってやるんだという気持ちを持ってやります。チームでは、勝負所のディフェンスや1本のリバウンドで負けてしまうことがあるので、そこを改善したいです。山下さん(ヘッドコーチ)には「いつでも試合を想定した練習をしよう」と言われています。また、「ビッグシュート、ビッグディフェンス、ビッグリバウンドを心掛けて練習しよう」とも言われています。
——ビッグシュート、ビッグディフェンス、ビッグリバウンドとは?
競っている時にこのシュートが入れば、このリバウンドを取れば、ここで1本止められれば、というプレイです。大事なところで決められるように、練習から意識していきたいです。
——Wリーグでの目標を聞かせてください。
まず、ベスト4に入らなければ優勝もないと思うので、今シーズンは確実にベスト4入りして、優勝を目指します。自分自身は努力することを忘れずにプレイしたいと思います。
質問コーナー(ホームページに寄せられた質問にお答えします!)
●帰化名の「新朝喜」(あさこ)という名前の理由を教えてください。
名字はそのまま「王」にしたかったので、名前の画数を見てもらって決めました。画数がいい漢字でも中国式だと使えない漢字もあったので、すごく悩んだんですよ。画数がいい漢字に「新」「朝」「喜」があって、チームのトレーナーさんに相談したら、「新しいは『あ』、朝は『さ』、喜ぶは『こ』と読むことができると言ってくださったので、「新朝喜」になりました。漢字を並べるととても恥ずかしいんですけど……(笑)。「新しい朝に喜ぶ」というのはとてもいい意味なので、そう決めました。
●練習がない時間は何をして過ごしていますか?
BIGBANG(ビッグバン)が大好きなので、練習が終わったあとはK-POPを聴いたり、韓国ドラマを見て過ごしています。体育館の近くにある温泉施設でお風呂に入ってマッサージしてもらうのも好きですね。自分はK-POPには詳しいんですけど、中国で流行している歌はあまり知らないので、中国の歌は全然聴きません。中国に帰省した時に友達に流行の歌を教えてもらっています。
●とても誠実そうなイメージの王選手。自分ではどんな性格だと思いますか?
周りからは中国人っぽくないと言われます。真面目だと言われます。中国っぽくないというのは当たっていると思いますが、真面目というよりはマイペースだと思います(笑)。自分は日本の気質がとても合っているんですよね。日本人はきちんと整列したり、順番を守ったり、整理整頓したりするじゃないですか。それが当たり前だと思いますが、中国では当たり前ではないところがあって…(苦笑)。日本人の気遣いが出来る文化が好きです。
●中国ではどんなバスケを習っていたのですか?
中学からバスケットを始めたのですが、その頃はそこまでしっかりとバスケットを教えてもらっていませんでした。基礎練習はボールハンドリングと朝練でグラウンドを走っていた記憶はあります。体育館では5対5やスリーメンをよくやっていましたが、本当に何もできなくて、バスケットそのものがよくわかってなかったですね。バスケットをきちんと教わったのは日本に来てからです。岐阜女子高校の安江先生のもとでしっかりと学びました。
●王選手の目から見て、コアラーズはどういうチームですか?
上下関係があまりなくて、ベテランのカズさん(橋本和子)がみんなに話しかけてくれて、いい雰囲気を作ってくれます。下の子たちもよくしゃべって、明るく楽しいチームです。自分は先輩からも後輩からも突っ込まれて、いじられキャラだと思います。でも昨年まではいじられましたが、今年は年齢も上から数えて3番目になりましたし、いじられないようにしたいです(笑)
インタビュー・構成/小永吉陽子