- 2006年5月6日(土)特集
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30歳、12年目で再びWリーグへ笑顔で支えるチームの潤滑油
慶山 真弓選手(アイシン・エィ・ダブリュ ウィングス)

今回のゲストは今季からWリーグに昇格したアイシンAWのセンター、慶山真弓選手です。甲子園学院高時代から183㎝の長身と器用さが目を引き、94年に鳴り物入りでシャンソン化粧品に入団。その後は日本代表として、世界選手権やアジア選手権で活躍しました。シャンソン時代に膝を痛めて2年間思うようにプレイできない苦しい時代がありましたが「2年間プレイできなかった分、今でも現役でいられる」と、今季で12年目を迎える息の長いプレイヤーになりました。3シーズン前にアイシンAWに移籍し、今シーズン念願かなってWリーグ昇格。「あの子はいつも笑っているけれど、実はものすごくよく考えている選手」と金ヘッドコーチも絶大な信頼を寄せるチームの頼れるお姉さんです。
——Wリーグ昇格おめでとうございます。Wリーグに昇格した感想から聞かせてください。
「やったぁ!」というのと「やっと…」という感じです。1部(Wリーグ)に上がった瞬間は、このためにアイシンAWに来たんだなあと感じました。
——入替戦は3戦までもつれるタフなゲームになりました。
はい。やっぱり向こうも1部の意地があるじゃないですか。私だったら絶対2部(WIリーグ)のチームに負けたくないと思いますもん。こっちは2部で負けなしだけど、1部の当たりとは全然違うところでやっているから、三菱が思う以上に強い気持ちでやらないと勝てないと思っていました。でも何ていうのかな…。「これに勝たないと1部に上がれない」と思うと緊張してダメなんですよ。だから「この三菱とのゲームに勝とう」「このゲームだけに集中しよう」と。それで終わった時に「これで1部だ!」と思いましたね。
——アイシンAWは、シーズン中から「Wリーグ昇格」だけを目指して突き進んでいました。
そうですね。金さん(ヘッドコーチ)とマック(浜口典子)さんが来て「絶対1部に上がるでしょう」って周りから言われましたし、実際に自分たちも「これだけ強化していたら上がるしかない」という気持ちがありました。逃げ場がないというか。これは、何が何でも絶対に上がらなきゃいけないと思いました。
——そういう周囲の声に対してや、入替戦でのプレッシャーはありましたか?
「みんな簡単に言うけれどさぁ」みたいなのはありましたね(苦笑)。私とイツ(島田智佐子)さんがここに来て何とかなるかなと思ったんですよ。でも、1部と2部の差は思ったよりも大きくて、甘いものじゃないというのを実感しました。金さんとマックさんが来てすごく心強かったんですけど、だからといって甘いものじゃない。一度、入替戦に出ているから余計に分かりましたね。
——その“差”とはどんなものだったんでしょうか。
一言で言えば意識の問題。シャンソンにいた頃は誰も言わなくても自分たちで考えていて、今何をしなきゃいけないとか、今は何が必要だとか、言わなくてもみんな分かっていた。でもここでは言わないと分からなかった。言ってもそれが理解できないというのがありました。これをするためには、その前にこれをしなきゃいけないというのがあるけれど、その一つ一つが直結していかない。だから一から全部言わないといけない。あとは勝ちたいという気持ち。負けてもいいゲームしたよ、みたいな。シャンソンでは負けることは許されなかったし、妥協する人はいなかったから、最初はそのギャップに戸惑いましたね。
——それでも、WIのチームに移籍をしようと思った理由は何だったのですか?
率直にもっと試合が出たかったんですよ。シャンソンは素晴らしいチームだったんですけど、シャンソンになかったものというは自分が試合に出ること。自分がゲームに出て、コートの上で仕事するということはシャンソンでは他の人がやっていて、自分は他の仕事だったり、下級生を育てたりとか…。それもいいけど自分が何をしたいかといったら、私はもっと思い切りバスケットがしたいというのがありました。
1部でやりたい気持ちもあったんですけど、でも…シャンソン以外の1部のチームには魅力を感じなかったんですね。優勝を狙うシャンソンと他のチームでは何か違う気がして。だったら2部でも「1部に上がりたい」という思いと、シャンソンの「優勝したい」という気持ちは同じような気がして。それは一緒くらい大変なことだと思ったので。決して楽をしたいとか、そういう気持ちは全然なかったけど、周りからは「何で2部に行くの?」みたいなこと言われました。「そうじゃないんだけどなー」って…。
——移籍してからは自分のパフォーマンスは満足できるものでしたか?
試合に出る満足感はこれ以上ないってくらいだったんですけれど、シャンソンでやってきた経験だけでやっていましたね。AWに来てから何か新しいプレイができるようになったかなというと、なかった。今まで経験して練習してきたものを小出しにして使っているだけでした。最初はそれで良かったんですけれど、だんだん行き詰まってきましたね。これじゃダメだなとは思っていました。
——今はどうですか? 金ヘッドコーチが来てからは変わったのですか?
いろいろ教えてもらっています。私が「出来ません」と言うと金さんは「いいからやってみなさい」と言うんですよ。で、やっていくうちに出来るようになるんです! 正直、もう限界かなと思ったこともあったし、引退も考えたし、金さんが来てなかったら辞めていたかもしれません。今は「こんなこともできるんだ!」って、プレイの幅が広がっていくのが楽しいですね。
——さて、この秋からWリーグでプレイします。目標を聞かせてください。
1部のレベルと当たりの強さを分かっているので、不安はあります。でも、まあ、何とかなるだろうというのもあるんですけど。どうにもならないことなんてないと思うので、前向きに(笑)。そういう意味では楽しみですね。やっぱり、うちの走るバスケットを思い切りやりたいです。そして、とにかく勝ちたい。ディフェンスはまだ欠点があるけれど、みんなオフェンス力はあるので、他のチームが脅威に思ってくれるくらいにやりたいですね。
——プレイ面での自分の役割は? 自分のここを見てほしいというところはどこですか?
私はうまいこと“つないで”いきたいと思うんですよ。自分が仕掛けるんじゃなくて、ゲームの流れで穴になっているところを埋めたいというか、ポッコリ空いているところにポンと入っていきたいみたいな。私は1対1が得意じゃないし、先頭を切って走るタイプでもない。じゃあ自分の生きる道は何かなと考えた時に、潤滑油のようにうまくつないでいくこと。リバウンドだとか、ディフェンスのカバーだとか、マックさんへのアシストだとか、スクリーンだとか、数字には残らないけれど、それがなきゃこのプレイは成り立たないというのをやりたい。あとはミドルシュートが好きなので、そこは確実に決めたいですね。
質問コーナー(ホームページに寄せられた質問にお答えします!)
●今シーズン、元チームメイトのシャンソンの選手と対戦する心境は?
シャンソンとやるんだなーと思ったら複雑ですね。正直、やりたくないです(苦笑)。サマーキャンプとか、オールジャパンで当たった時もやりたくないと思います。でも、やり出すと楽しいですね。みんなのクセとか知っているし、向こうも知っているし。でも今までリーグでの対戦はなかったからなあ。うーん…。シャンソンは女王の意地を見せてくるだろうけど、私たちも思い切りぶつからせてもらうよ、ってかんじです。
●国内外問わず、憧れや、尊敬、好きな選手はいますか?
ジェット(加藤貴子、元シャンソン)さんです。私の中ではあの人以上の選手はいないですね。ジェットさんのすごさは一言では言えないけれど、とにかく、一瞬に全神経を集中させていろんなところを見ている人。「それ見えていたの!?」みたいな(笑)。ジェットさん自身は全然隙がないのに、相手の隙を見て突くのがうまい! すっごいスピードがある選手ではなかったと思うんですね。でもあれだけできたというのは、相手をよく見て隙を突いたからですよね。すごい頭のいいプレイヤーだと思います。多くを語る人ではないんですが、今でもいろいろ相談に乗ってもらっています。人間として大好きです!
●センターをやっています。コーチから「ミドルシュートを覚えればプレイの幅が広がる」と言われましたが難しいです。慶山選手はシュートが上手いのでコツを教えてください。
ミドルシュートを打てと言われても、センターならばゴール下のプレイが強くないと、ディフェンスに簡単に守られてしまいます。ゴール下もガンガンやりながら、状況を見てミドルシュートを打つとディフェンスも的を絞れないので効果的です。私は高校の頃からミドルシュートが得意で、接触プレイが好きではありませんでした。シャンソンにいた頃、ジャパンエナジー対策で私がスタメンの相手でマックさん役をやったんですよ。ゴール下でガンガン攻めているうちに接触プレイが苦手ではなくなって、ミドルシュートがさらに打てるようになりました。まずはインサイドをやることが第一で、それからミドルシュートを身につけてほしいです。シュートは練習がイチバン! 打ち込みをすることです。
●休みの日は何をしていますか?
練習が休みの前の日にイツさんと飲みに行って、休みの日は部屋でグダグダしていることが多いかな(笑)。お風呂が好きなので健康ランドに行ったり、家のお風呂にのんびりつかったあとに本を読んだり。買い物もあまりしないんですよ。チームメイトは名古屋の栄とか行きますけど、私は岡崎のイオンとかで済ませてます(笑)
●公式プログラムの好きなものに「焼酎」とありますが、どれくらい好きなのですか?
フフフ(笑)。焼酎好きですねぇ。特に芋焼酎が。梅酒やビールも好きですねぇ。チームでは私とイツさんと金さんが酒豪ですね。昔は飲んだら盛り上げる派だったけど、今はチームの下の子たちに圧倒されて「オオ〜ッ」とか言ってます。年取ったなぁ(笑)。お酒が入ると普段言えないことが言えるじゃないですか。愚痴ったとしてもすぐに忘れるし、語る時にはお酒ありみたいな。私にとってお酒を飲むことは趣味といってもいいかもしれない(笑)
構成/小永吉陽子