- 2004年12月15日(水)特集
-
30代、第2のバスケット人生 「毎日が勉強、充実してます!」
桜庭 珠美選手(トヨタ自動車 アンテロープ)
今年、3シーズンぶりに現役復帰を果たした桜庭珠美選手。ジャパンエナジー(現JOMO)時代と変わらぬパスワークの良さと、以前にも増したシュート力を引っさげ、パワーアップした姿でコートに帰ってきました。9年間、ジャパンエナジーで活躍したのち、出版社に勤務。バスケットを中心としたスポーツの企画運営をする部署に配属され、選手への取材や、本作りも経験。現役復帰をした選手は過去にもいますが、桜庭選手のように会社員時代を経て、フルタイム出場するまでに復帰したケースは前例がなく、その勇姿はファンに勇気を与えています。12月11日には30歳を迎えた桜庭選手。現役復帰の決意から、現在に至るまでを聞いてみました(ちなみに、写真は“三十路”ポーズ)。
——まず最初に「お帰りなさい」。現役復帰しようと思った理由から聞かせてもらえますか。
入社した会社では、WEBコンテンツで自分のコーナー(「たまクエルームへようこそ!!」)を持たせてもらい、そこで選手にインタビューをしたり、クリニックなどに参加しました。そこで、ベテラン選手に取材をして頑張っていることに刺激を受けたのと、あとこれも言ったほうがいいかな。仕事でマイケル・ジョーダンの本「The Man(宮地陽子著)」を編集させてもらったんですけど、その中にジョーダンの復帰に対する思いが書かれていて、こういう生き方もあるのかなと、すごく考えさせられました。それから復帰することを考え始めました。
——こういう生き方といえば、桜庭選手が引退した時「東京に残って社会人として働きたい」と聞いた時は「第一線で活躍していたスポーツ選手が会社員に!」と驚いたものですが、実際に会社員として働いて得たことはありますか?
マックさんたちみたいに最後の年までガンガンにやっていたら、少しは休みたかったと思うんですよ。でも最後のシーズンは全然試合に出なかったじゃないですか。9年間やって、その先バスケットに専念する道は選べなかったけど、体力が余っていたから今度は違うことをやってみたかったし、エナジー時代は体育館と寮の往復だけで、バスケットの世界しか知らなかったので、働いてみたいというのがありました。仕事のことを何も知らない私を雇ってくれた会社には感謝しています。仕事したのはちょっとの間ですけど、バスケットを盛んにしようと頑張っている人がたくさんいることが分かったし、少しは社会勉強ができたのではないかと…。
——でも、会社員になった時は、まさか復帰するとは思ってなかったですよね?
はい。いくつか復帰の話はいただいていたんですけど、エナジーを辞めてすぐの時は、マック(浜口典子)さん、エース(大山妙子)、サンちゃん(楠田香穂里)がバリバリやっていたし、私は金さん(元ジャパンエナジーヘッドコーチ)に育てられたので、あの3人と金さんがエナジーにいるうちは敵同士になりたくないというのがあって、「イヤです!」と言ってました。(復帰は)考えられなかったです。
それで、去年のサマーキャンプに取材に行ったとき、トヨタの丁さん(ヘッドコーチ)に熱心に声をかけてもらってから、気持ちが動きました。ちょうど自分の中でもベテランの人やジョーダンの生き方に刺激を受けていた時だったので…。それでバスケットの現場に戻ることから始めて、トヨタのアシスタントコーチになりました。その後、現役選手に触発されて、いつの間にかプレイヤーとして復帰してしまいました。ごめんなさい(笑)
——いえいえ、謝らないでください(笑)。ところで、復帰するに当たっては相当な覚悟があったと思うのですが。
エナジーの時にケガをした膝と首のことは心配でした。特に首のヘルニアが。ケガをして、もうエナジーではダメだと思って辞めたのもあるから、痛みが出たらどうしようとか、体力的に戻るだろうかとか、不安はありました。今は首も膝も大丈夫です。丁さんには「40分間出る体力を作っておけ」と言われて、最初は「エエーッ40分出るの!」と思ったんですけど、「いいやー、どうにかなるさー」と思ってやってます(笑)
——その言葉の裏には、負けず嫌いの桜庭選手のこと、相当練習をしたんでしょうね。3シーズンぶりのWリーグは以前いた頃と変わっていましたか?
今はずいぶんと力が拮抗してますね。もう2強じゃないというか。私たちの時代のシャンソンみたいに、絶対に勝てないという相手はいないから、精神的にキツイと思うことはないです…と言っていいのかな。体力的にはヘトヘトで怒られながらやってるんですけど(笑)
——元々、得点力はありましたが、以前と比べて、相当得点が多くなりました。
そうなんです。私が1試合20点取るなんて信じられません! エナジーの時は周りに点を取ってくれる人たちがいっぱいいたから、自分はパスだけを考えていました。今は自分が攻めてシュートを打たないと丁さんに怒られてしまいます(笑)。今まで9年間やってきたバスケットとはスタイルも求められていることも全く違うから、ほんとテンパってます(笑)
——思えば、桜庭選手の経歴はすごいものになりましたね。
ほんとですね。これからこういう選手は増えてくるんじゃないですか。マックさんとかエースとか。まあサンちゃんは難しいかもしれないけど(笑)。3人のことは置いといても、私のようにあとに続く人が出てくればと思います。この私だって戻ってこれたんですから!
——12月には古巣のJOMOに勝利。桜庭選手の気合いは十分に伝わってきました。
心の底から嬉しかったです。最後はベンチにいたんですけど、飛び上がっていました(笑)。多分、そんな喜んだのは初めてです。エナジーで(自分にとっての)リーグ初優勝と2冠を獲った時はキャプテンだったので、ホッとしたというか、プレッシャーから解放されたほうが先だったから…。今回のJOMO戦は自分の気持ちが入っていました。JOMOとやることはすごく意識したし、マッチアップするシン(大神雄子)にもOGとして負けたくなかった。でも何よりも、トヨタのみんなで頑張って勝てたことが本当に嬉しかったです。
質問コーナー(ホームページに寄せられた質問にお答えします!)
●以前は取材するほうでしたが、今はされるほう。どちらが楽しいですか?
どっちもイヤです〜(泣)。どっちも緊張しっぱなしです。口ベタなんで。取材される時は「何聞かれるんだろう」、取材する時は「何聞けばいいんだろう」って思っていました。エナジーでキャプテンになった時は腹くくってしゃべったんですけど、「お願いだからエースやマックさんに聞いてくれ〜」っていつも思ってました(笑)。今はだいぶしゃべれるようになりましたかね?
●バスケット選手から会社員ということでしたが、会社にはすんなり馴染めましたか?
毎日ドキドキしながら会社に通ってました。私のプレイヤー時代のことを知ってる方も多かったし、会社の人は皆さんいい方ばかりでしたが、仕事は馴染めませんでした(苦笑)。覚えることがいっぱいで、毎日が勉強でした。残業もしましたよ。バスケット界を支える方、裏側の世界を知ることができて、逆に感謝しています。
●以前と代わり映えしない動きでびっくりですが、復帰に当たって重点的に練習したことは?
会社員時代はなーんにもやってなかったので、現役時代とは体脂肪からして違ったし、体力も全然落ちてました。まず、筋力、体力を戻すことから始めて、走り込み合宿とか、追い込み練習とかしました。でも、トレーニング以外は特別なことはしてないです。
●エナジーからトヨタに入ってみて、バスケットスタイルの違いで戸惑ったこと、苦労したことはありますか?
苦労したというより、今も苦労しています(笑)。エナジーとトヨタのバスケットは全然違うし、丁さんのバスケットをまだ完全に理解できてないのが悔しいです。ポイントガードなので、周りともっと合わせないといけないし。エナジーの時はフリーランスな動きが多かったので、今でもその感覚でいるとパスがコートからはみ出したり、一人だけ逆方向に動いたりしてるんですよ。「体力ないからシュートが入らないんだー」って、怒られてるし(苦笑)。少しずつですが丁さんのバスケットを理解してきているので、これからを見てください。
●休みの日は何をしていますか?リラックス方法は?
今は(大好きな)ディズニーランドにもなかなか行けないし、休みの日は家にいることが多いです。エナジーにいた頃は疲れていてもストレス発散のために外出していたんですけど、今は家にいるのがラクで落ち着けます。豊田の街のことがよく分からないというのもあるんですけど。年ですかね(笑)
構成/小永吉陽子